一章 色珠

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次の日、17時が近づくにつれ京一は落ち着きがなくなった。 昨夜もバイト先のコンビニの夜勤に入ったが夜が明けるまで京一の頭の中を“色珠”と言うサイトの事が巡り続けた。 時計は16時30分過ぎを、指している。 「行かへんかったらほんまにアオイさんと無理なるんやろか? 」 京一が呟く。 「あぁもう面倒くさっ! やばかったら帰ったったらええねん!」 京一は考えるのが面倒くさくなって部屋を飛び出す。 夏の熱気がすぐに京一を炙る。自転車を飛ばして心斎橋の方向に向かう。 京一の住む大国町から心斎橋までは自転車で10分くらいだった。 相変わらずミナミの街は人でごった返している。人を避けて自転車をこぐ。 心斎橋に近い“スポタカ”の前に自転車を置きそこから歩いて京一は集合場所とされる田中ビルを探した。 田中ビルはすぐに見つかった。 老朽化が激しい雑居ビル。 集合場所と言うから誰か来ているのかと思ったら誰も来ていない。 まだ17時より少し早いせいだろうか? 17時、5分前に古いエレベーターが1階に着き中からスーツ姿の女性が出てきた。 女性は27、8歳くらいに見える。 眼鏡をかけた髪の毛の長い小柄な女性だ。 雑居ビルの入口から中の様子を見ていた京一の所に女性はヒールの音を、響かせ迷いなく近づいてくる。 女性が京一の前に立つ。 「坂井京一君ね」 真っ直ぐに京一を、見て女性が言う。 急に知らない女性から名前をよばれて京一が驚く。 「あの……僕やっぱり帰ります」 立ち去ろうとする京一の腕を女性が掴む。 「危害を加えるつもりもお金をとるつもりもないわ」 女性が真剣に言う。 京一はどうして良いかわからず立ちすくむ。 「ここで帰ったら一生、兵藤アオイさんへの恋は実らなくなるわ」 女性が京一の目を見て言った。 女性のあまりに真剣な表情から嘘をついているとは思えない。 京一は女性の後について雑居ビルの中に入って行った。 ・
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