序章

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2010年7月初旬…… 京一は眠れぬ夜を過ごしていた。 狭い部屋にクーラーの無機質な機械音だけが響く。 テレビをつける気にもならない。 窓を開けると生温い不快な大気に体が触れる。 夜の街はぼんやりと光っている。 街から立ち上る臭気が夜空を汚しているのか星なんか全く見えない 京一は暗い夜空を眺めながら一人の人の事を想う。 京一が虚空に思い描くのは一人の女の人の事だった。 数回、会った事もあるし会話も交わした事がある。 しかしなぜか顔がはっきりと思い出せない。 ぼんやりとは出てくるが彼女の顔はいくらイメージしても出てこない。 彼女の事を思う度に頭の中は混乱する。 途端に自分の人間としての性能の悪さばかりが目につき出す。 しかしそれは自分から見ての事で彼女が自分をそう見ているとは限らない。 何が正解かなんて答えはない。 人の欠点は魅力であったりもするのだ。 ますますわからなくなる。 羅針盤を失った船のように京一の心は夏の夜空をさまよい出す。 あと何時間か後に彼女に会う。 意識していないと自分の心は暴走し感情の揺れに自分自身が振り落とされそうだ。 京一は眠れずぼんやりとした街の明かりを見つめ続けた。 やがて街は夏の熱気に焙られ始めた。 ・
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