一章 色珠

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外へ出ると京一の細い体を夏の熱気が襲う。 汗が吹き出す。 大阪市が街中に設置している巨大な温度計には三十八度と表示されている。 ミナミの街は人でごった返していた。 細い路地に人が、密集している。 飲食店から漏れた臭気が京一の鼻を刺激する。 京一は人の間を、熱気に焙られながら縫うように歩く。 京一は、伸びた髪を切るために美容室“ラエ”に向かっている。 “ラエ”は、心斎橋の外れにある小さな店だ。 “ラエ”が近づくにつれて京一の心の揺れが大きくなって行く。 「どないもならんな…… 」 京一は、一人言を繰り返す。 夏の日差しは午後に入り勢いをましていた。 ・
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