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「いや……別に…… 」
京一が、素っ気なくアオイの問いに答える。
「そうなんや。ふーん。何か悩んでそうな顔だったけど…… 」
アオイが慣れた手つきで京一の髪をカットしながら言う。
“あんたの事を、考えとるんじゃい! ”
京一は、口に出さずに自分の中で叫ぶ。
アオイは、その後も気を使ってかそれとも営業トークなのか京一に色々と話し掛けてくる。
無口で単調な日々を送っている京一には会話を盛り上げたり、自分からアオイに話題を提供したりする術がない。
何より京一はアオイの前に来ると緊張して思考が停止してしまう。
髪を切られながら京一はアオイに何か話し掛けないとと焦る。
焦れば焦るほど京一の頭の中から言葉がなくなっていく。
自分の弱さと向き合う事に耐えられなくなった京一はもう早く髪を切り終えてくれと思っていた。
一ヶ月待ちわびた時間は空しく呆気なく過ぎて行く。
“俺は何をしとんねん! ”
京一の中で感情が、小爆発を起こす。
アオイは京一の髪を切り終えると「髪の毛流しますね」と言ってアシスタントの女の子をよんだ。
そしてアオイは次の客の元に向かう。
アシスタントのぽっちゃりした女の子が京一の髪を洗ってくれた。
緊張から解放された京一はアシスタントの女の子にしゃべりまくっていた。
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