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「起きたか?」
声をかけられて初めてそこに人がいることに気づいた。
「約十時間か、まだ寝ると思ってたよ」
声から男なのだろう。
夜月は男の方向を向いて。
「ここはどこだ?」
と聞いた。
「ここは俺の仮住まいだ」
「仮・・・・・・ってことは住んでるわけじゃないのか?」
「ああ、仕事上一ヶ所に留まることがなくてな」
「仕事・・・・・・」
言いかけて夜月は男の背中に翼があることに気づいた。
「あんたも天使なのか?」
男はニヤリと笑い、
「おう、天使のクロスだ、よろしくな、兄ちゃん」
「朝日夜月だ」
夜月は答える。
「いっしょに天使の女の子を見なかったか?」
夜月がそう聞くと、クロスは突然さっきまでの軽い雰囲気を完全に消して、真剣な顔で夜月を見た。
「いいか兄ちゃん、兄ちゃんには二つの選択肢がある」
夜月はクロスの目を真っ直ぐに見た。
「一つはいままでのことを忘れてもとの生活に戻ること、もう一つはこれからの話を聞いてこちらの世界に足を踏み入れること、どっちがいいか決めな兄ちゃん」
夜月は黙って考え込んだ。
クロスはその様子を見て笑う。
(すぐに答えはださないか、ただこちらの世界に来たい馬鹿でもないみたいだな)
数分後、夜月は独り言のように話し始めた。
「最初に俺が感じたのは戸惑い、次はその世界への好奇心だったかな」
「好奇心・・・・・・か」
「ああ、あの世界に入ってきた時にはそう考えてた」
そこでクロスが手で制してきた。
「ちょっとまってくれ、そもそも何で天使の結界に入り込めたんだ?」
夜月はなんのことかわからないという顔をした。
クロスが更に険しい顔をする
(おいおい、意識もせずに入り込んだって言うのかよ!
フィンの奴マジに当たり引いたのか?)
「おい、どうしたんだクロスさん?」
クロスはハッとした感じで顔を上げ、何でもないという表情をした。
「いや、何でもないさ、それよりクロスさんなんて言わんでクロスでいいぜ」
クロスが笑って言う。
夜月は釈然としない目で見る。
クロスがあわてて、
「まあそんなことより、それで?」
「あ、ああ・・・・・・であの犬の化け物、ケルベロスにフィンが投げられた時には好奇心とか自分のこととかはもうどうでもよかった、気づいたら身体が勝手に動いてたよ」
「へえ」
「たぶん、自分の前で何も失いたくなかったんだよ」
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