166人が本棚に入れています
本棚に追加
あの波は今いるここも襲うかもしれない。その時の私に出来ることは、ただ坂を上るだけだった。重い車椅子を押して地震で崩れたのだろう崖を避けていく。
息がきれる。激しくぜえぜえという自分の呼吸を聞いて、もしかしたら過呼吸を起こしかけているのかもしれないと思ったが、よくわからなかった。
上の駐車場につくと、その場にいた人たちは町が見える端の方へ駆けていった。私はとても見る気になれなくて、駐車場の真ん中でただ呆然と立っていた。
「次の波はもっと大きいかも知れないぞ! もっと上に逃げたほうがいいんじゃないか」
誰かがそんな事を叫んでいたが、これより上に行くには崖を登らなければいけない。これ以上足掻くのは無理な気がした。
もう一回津波がきたら死ぬのかな。
怖いという気持ちはとうに振り切ってしまっていて、死ぬことを怖いとは感じなかった。
ただ、そうなんだな、と思った。
最初のコメントを投稿しよう!