166人が本棚に入れています
本棚に追加
一階では物が散乱していて、母が大慌てで片付けようとしていた。母はこちらに気付き、
「あんた、いかなきゃいけないんじゃないの」
と言った。しかし家の様子を見た私は一瞬戸惑った。
「でも、こんな時なのに……」
「いいから行きなさい!」
自分の家が大変だというのに、何で他人の世話をしに行かねばならないんだろう。すごく悔しい気がした。それでも私は行くことにした。
車に乗り走り出すと、父の車が家に戻って来るのが見えた。一瞬父が何か言いたそうな顔をしたが、私はかまわず車を走らせた。
この時はまだ「津波来るのかな、床上浸水ぐらいするかもな」くらいの気持ちであった。
職場は家のすぐ近くなのであっという間につく。駐車場にいくとケアマネはじめスタッフたちが利用者のお年寄りを懸命に外へ出していた所だ。
「硝子ちゃん! ちょうどよかった、○○さんたちを乗せて役場までいって!」
役場(正確には市役所支所)は職場から目と鼻の先の高台にある。災害時には避難場所として指定されているのだ。利用者4人を詰め込んで、今度は役場へと向かう。
最初のコメントを投稿しよう!