図書館の怪老人

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「……【神格の退散】……か。準備どころか、呪文すら無しとは恐れ入ったぜ」 文亮は黒猫を抱き上げた。 芽依美は苦しげに喘ぐと、遥を心配そうに見た。 「もう、時間が無いようね。急がなくちゃ」 意識を集中し、教室を地上へ返すイメージを魔力に込めた。 「……我ら祖の子孫……我ら祖の子孫……我ら偉大なる祖を称えん」 芽依美は呪文の代わりに、ラヴクラフト学園の学園歌『我ら祖よ』を歌った。 表向きはクリスチャン系の歌詞に聞こえるが、内容はクトゥルフ教団によるクトゥルフ讃歌である。 「万年を超え……億年を超え……永久に思索たもう……永久に望みたもう……」 芽依美の声に、もう一つの声が重なった。 文亮も参加していた。 低音パートを少し恥ずかしげに歌う。 「久遠の大海を……久遠の海原を望みれば……その深遠に……」 もう一つ、綺麗なソプラノが重なる。 二人は、驚きながらも歌は継続する。 芽依美に抱えられた、遥が目を閉じながら、一緒に学園歌を歌っていた。
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