図書館の怪老人

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「来栖様……この辺りが限界かと……」 身体に纏わりつくねっとりした不快な空気が霧のように水滴になる。 空気は重く湿っているが、背筋が凍る程の冷気も吹いている。 身体は湿っているのに、衣類には霜が降りる異様な状況に、大男は不安を感じていた。 「そうだね……ふふ。僕も何度か来てるけど……いつも不快だね、ここは」 来栖も異様な空気の中、汗をかきつつ、また同時に凍えそうだった。 「さてと……博士。ここでサヨナラだ。……次に遭うときは、すっかり彼の下僕になってるんだろうね」 来栖は痙攣かと思うような引きつった笑いをして、トンネルからその先の空間に、アーミティッジ博士の脳が入った銀色の円筒を投げた。 トンネルから投げ入れられた筒は、広い、下水道の終着点のようなドーム状の空間に落ちて行った。 そのドーム状の下部には、南太平洋の海底の泥と、深海の冷たい海水が満たされており、何かがうずくまっていた。 かつて、太古の地球に君臨した、 魔道書ネクロノミコンや悪書クタート・アクアディンゲン、その他魔道書と呼ばれる書物に言及される、死のように眠る者。 クトゥルフ その存在が、最新科学の粋を駆使し、 ラヴクラフト学園地下に、運ばれ、そして、復活の日を待っていた。 「……!!」 肉体を失い、脳だけの存在となったアーミティッジ博士は、魔力の施された円筒の中でさえ、そのクトゥルフの存在は、残り少ない正気を完全に失うのに、有り余るものだった。
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