98人が本棚に入れています
本棚に追加
「えーでは、時間ですので、終了します。後ろから、プリントを集めて下さい」
現文のテストが終了した。
時計を見るときっかり一時間だ。
ガヤガヤした雰囲気の中、後ろからテストが送られてくる。
後ろの席からテストが渡される時、ふと芽依美と目が合った。
少し笑っている。
田中の席が見えた。
そこには、学園が用意した、“新しい田中”が座っていて、同じように後ろからのテストを受け取っている。
遥には見覚えの無い、田中。
しかし、洗脳されたクラスメートには、初めから同じクラスメートの田中なのだ。
「遙、早く」
「あ、ごめん」
ボンヤリしてテストを前に送るのを忘れていた。
「……先生の時計が少し狂っていたようですね。申し訳ない。すぐに次のテストに移るので、トイレ休憩は早めに済まして下さい」
教室が宇宙に行っていた時間は、さすがに教団でも戻せない。
それでも、時間のロスは10分程度で済まされた。
文亮や芽依美の活躍があったから、この程度の時間ロスで済んだのだ。
「イテテ……なんか、腰が痛みますね」
安藤先生は腰をさすった。
「先生、年なんじゃない?」
女子生徒がからかう。
違う。
先生は、田中に吹き飛ばされたんだ。
それを、あの甲殻類の怪物が治したんだ。
遥は、いっそのこと、他のクラスメートのように記憶操作された方が楽だと感じた。
あんな事があったのに、誰も覚えていない。
クラスメートが他人に変わったのに、気が付かない。
遥は、芽依美や文亮が、
こんな辛い思いをしてきたのだろうかと思うと、胸が苦しくなった。
最初のコメントを投稿しよう!