魔道書

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「えーでは、時間ですので、終了します。後ろから、プリントを集めて下さい」 現文のテストが終了した。 時計を見るときっかり一時間だ。 ガヤガヤした雰囲気の中、後ろからテストが送られてくる。 後ろの席からテストが渡される時、ふと芽依美と目が合った。 少し笑っている。 田中の席が見えた。 そこには、学園が用意した、“新しい田中”が座っていて、同じように後ろからのテストを受け取っている。 遥には見覚えの無い、田中。 しかし、洗脳されたクラスメートには、初めから同じクラスメートの田中なのだ。 「遙、早く」 「あ、ごめん」 ボンヤリしてテストを前に送るのを忘れていた。 「……先生の時計が少し狂っていたようですね。申し訳ない。すぐに次のテストに移るので、トイレ休憩は早めに済まして下さい」 教室が宇宙に行っていた時間は、さすがに教団でも戻せない。 それでも、時間のロスは10分程度で済まされた。 文亮や芽依美の活躍があったから、この程度の時間ロスで済んだのだ。 「イテテ……なんか、腰が痛みますね」 安藤先生は腰をさすった。 「先生、年なんじゃない?」 女子生徒がからかう。 違う。 先生は、田中に吹き飛ばされたんだ。 それを、あの甲殻類の怪物が治したんだ。 遥は、いっそのこと、他のクラスメートのように記憶操作された方が楽だと感じた。 あんな事があったのに、誰も覚えていない。 クラスメートが他人に変わったのに、気が付かない。 遥は、芽依美や文亮が、 こんな辛い思いをしてきたのだろうかと思うと、胸が苦しくなった。
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