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「やっ!ひかるはおれがまもるんだからっ。あっちいけよっ!」
ぎゅう、っと、小さく震える体を強く抱き締め、精一杯の虚勢を張っているのは兄貴の宏太。その腕の中で震え、わんわん泣いているのは俺だった。
目から沢山の涙を溢している俺に対して、兄貴は必死で涙をこらえ、きょろきょろと宙を睨みつけている。
いや、それじゃあ少し語弊があるな。正しくは、宙を忙しなく動き回る一匹のミツバチを睨みつけている、だ。
そんな光景を、あぁ、そういえば昔、こんなことがあったな、と、微睡(まどろ)む意識の中で見ていた。
「……る、…ひ…る」
「ん、」
そんな状態の中、名前を呼ばれたような気がして重たい瞼をそっと開ける。
朝陽が眩しくて目を細める先には、不機嫌に顔を歪める兄貴がいた。
そりゃそうだ。
だって起きたら抱き締められてるんだから。
どこの世界に男、しかも兄弟に抱き締められて嬉しいヤツがいるんだ。
いや、俺は嬉しいけど。
「はよ、兄貴」
「はよ、じゃないよ。なんで、…」
もぞもぞと腕の中で動く兄貴を抱き直し、そういえばあのあとどうなったんだっけ、と、一人考えていた。
ら、ほっぺをつままれた。
「っ、あにひ、いひゃいいひゃいっ(兄貴、痛い痛いっ)」
ぶにっと。
それはもう凄い力で。
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