中山道

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「近藤さん、何があったか詳しく聞かせてもらおうか。」 近藤の元に皆が集まると、土方は腕を組みながら、不機嫌そうに切り出した。 額に深く刻まれた皺が彼の苛立ちを象徴している。 ピリピリとした緊張感が辺りを漂う中、近藤は叱られた子供のように肩を落とし、弱り切った顔でこれまでの事情を語り始めた。 道中先番宿割は、本隊とは別に出立し、宿場町を先回りし200人を越える浪士達の宿の確保と宿割をしなければならない。 当初、伝通院で編成が発表になった時、近藤は宿割の役には無かった。 しかし、直前で辞退者が出て、その時点でなんの役にも付いていなかった近藤に話が回ってきた。 土方はこの話には反対だった。 役付なんて名前だけのもので、宿割など使いっ走りのようなものだ。 そんな面倒な役割を受けても利にならないと辞退するように近藤に進めたが、何事にも律儀な近藤は頂いた役だからと喜んで引き受けてしまった。 「つまり、宿割番の一人が体調不良になって、残りの2人だけで駆けずりまわって何とか宿を確保したものの、よりによって芹沢達の分を忘れて、さっきの騒ぎになったつー事か」 「まぁ、そうだな。」 盛大に肩を落とし、すがる様な瞳で見つめてくる近藤の姿に、土方は少し大袈裟な溜息をつく。 「まぁ、近藤さんは細かい仕事は苦手だからなぁ。こんな役でも実績になるかと思ったけど、裏目に出たか。」 やはり、何がなんでも反対するべきだったかと、土方は後悔したが、過ぎてしまった事はどうにもならない。 「すまん、トシ……」 土方の言葉に近藤はさらにしょぼんと肩を落とした。 「まぁ、まぁ、土方くんもこれぐらいの事で、あまり責めちゃ可哀想ですよ。それよりも、足りない分の3部屋を早く確保するのが先ですよ。」 近藤達が作成した宿割表を手に、山南が二人の間に割って入る。 「そうだな」 土方は小さく息を吐くと、山南から宿割表を受け取った。 200人を越える浪士達の部屋割に目を通すのに、たいした時間はかからなかった。
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