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耳元でけたたましく響くアラーム音に、心地良い夢の世界から強制的に引き戻される。
その音の主の上のボタンを、半ば憎しみを込めて叩き、黙らせると、少女はもぞもぞと布団から這い出る。
そして、ゆっくりとベッドから離れると、その場所で大きく伸びをした。
今日から新しい学園生活の始まりだ。
その初日から遅刻をするわけにもいかない。
その為に、こんなに早起きしたのだ。
シャワーも浴びたいし、髪型もきちっとしたいし、メイクもちゃんとしたい。
女の子の朝は長いのだから。
「はい、行ってきま~す」
と、無対象に言いながら、扉に鍵を掛ける。
一人暮らしなのだけれど、何も言わないのは悲しすぎる。
言わない習慣よりは、言う習慣をつけた方が良いに決まっている。
毛先を跳ねさせたセミロングの茶髪の少女、朝風ミウは、制服のブレザーに付いた糸屑を払い、新しい毎日の始まりへと足を進めた。
朝のこの街も、なかなか良いものだ。
春休みの内に、探検は十分してみたが、昼と朝では、爽やかさが違う気がする。
この街は、歓楽街に近い。
住宅やオフィスビルも有るが、レンガで舗装された並木道に、お洒落な店も有り、これから徐々に人が集まり始める感じだろう。
いつもより、少し静かなその街を、悠々といい気分で歩いていると、思わず鼻歌が混じる。
その時だった。
「あ~っ!」
「!?」
背後から、不意に幼い少女の声がした。
振り返れば、そこに居たのは、母親と思しき女性に手を引かれた、空に手を伸ばす、やっぱり幼い少女。
親子共々、思いっきりおめかししているのを見るに、遠くからお出かけなのだろう。
その2人が見上げる先には、空に吸い込まれていく黄色い風船。
あぁ、なるほど。
ぐんぐん登る風船は、もう高さにして10メートルくらいは行ってしまっているだろうか。
(うん、余裕だね)
ミウは手にしていた鞄を、その場で手放す。
と、同時に、突如地を蹴り、数歩の助走の後、一気に跳び上がる。
そして、いとも簡単に、一瞬で有り得ない高さの風船の紐を掴んだミウは、そのまま少女の頭上を飛び越し、その背後に着地した。
それからミウは、唖然とする母親に微笑みかけ、少女に風船を手渡す。
「はい。しっかり持ってなさいよ~。こうやって、手に紐を巻いとくと、飛んでかないでしょ?」
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