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「相変わらずアホな奴じゃ、」 口から吐息が漏れるような、そんな力無い、掠れた声が出る。桐生は、先程よりも震えていた。 俺は桐生を呼ぶため、だらりとベッドに置かれた腕を伸ばそうとした。途端、全身に走る激痛に身体が強張る。痛いと叫びたくなったが、生憎俺の口からは僅かに息が漏れるだけ。それでも、桐生は俺の元へと歩み寄ってきた。 「眉間の皺、すごい、」 ボソリと呟き、ベッド横に置かれた椅子へと座る。そして俺の手を取り、手に巻かれた包帯を優しく撫でる。そして、俺の頭から爪先までを一通り見て、視線を床へと落とす。 頭も腕も足も、見えてはいないが、おそらく背中や腹も。ほとんど全身に包帯を巻かれているらしく、身動きがとれない。そこでふと考える。俺は何故、こんな所で、こんな状態になっているのだろうか、と。 「なんで、」 桐生が呟く。弱々しく、震えた声で。桐生は、視線を俺へと向ける。眉間に皺を寄せ、目に涙を僅かに浮かべ、今にも泣きそうだ。 「なんで、飛び降りた、」 なんで、という質問のはずなのに、クエスチョンマークの付いていない桐生からの問い掛けに、俺は桐生から目を逸らし、力無く笑った。そうだ、俺は、飛び降りたんだ。そう思った途端、その時の光景が鮮明に蘇る。ああ、そうか、俺は「死ねなかった、」のか。 鼻を啜るような音が聞こえ、ハッとする。俺は今、何と言っただろうか。死ねなかった、と口にしてしまったのだろうか。 ゆっくりと視線を桐生に戻せば、桐生は唇を強く噛みしめ、泣いていた。初めて見た、桐生の涙だった。
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