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初めて桐生を見たのはいつだったか。そうだ、4月のことだった。桜は既に葉桜へと姿を変えはじめ、風が吹けば、散ってしまった桜の花びらがフワリと舞う。そんな中、アイツは一人校庭に立っていた。
俺たちの高校は、男子は学ラン、女子はセーラー服。元々田舎の中の田舎だったし、アイツの着ていた制服は、どことなく洒落て見えた。スッと伸びた背筋も、ワックスで格好よく整えられた髪も、何もかもが気に食わなかったのを覚えている。
「なあなあ、悠ちゃん。あの子、誰なんじゃろうか、」
窓際の1番後ろ。所謂特等席から校庭を覗く。その隣から、幼なじみである亮も、一緒になって校庭を覗く。
「知らん」
亮の質問に素っ気なく答え、頬杖をつく。無意識のうちに口を尖らせていたらしく、亮に唇を突かれる。
「大人っぽい子じゃね」
亮は目を輝かせ、ニコニコ笑う。それがまた気に食わなくて、俺は一人校庭にいたアイツを睨みつけてやった。それを見た亮がケラケラと笑っていたけれど、俺は気にすることもなく、ひたすらアイツを睨みつけた。
「あ、悠太!亮!今日転入生がくるんじゃって!」
ガラリと勢いよく扉を開く音がしたと思えば、背中に襲い掛かる強い衝撃。それは亮も同じだったようで、椅子から勢いよく転げ落ちた。
「ありさ、朝からうっさい」
後ろを振り向き、ため息をつく。隣からは「あいたたた、」という声と、倒れた椅子を直す音が聞こえてきた。ありさは、反省する気があるんだか無いんだかわからないような笑みを浮かべていた。
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