第1章 路地裏の異端児

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荒い息と口の端から滴る涎が厳つい腕に拭き取られる。 怒りに身を任せたニヘート越えの巨躯が立ち上がろうとした瞬間、俺は右膝を腹に近付けるように引き上げ、足の裏で金髪マッチョの顔面に全体重を乗せて蹴り込んだ! 「沈んでろ!! 冥土の景色を楽しみなッ!」 グシャァッ!!と音を立て、鼻の骨が折れる音が脚に伝わる。 金髪マッチョはなす術無く正座の状態で後ろに倒れ込んだ。 恐らく俺に掴み掛かろうとした腕は虚しく空を切り、瀕死の虫のように僅かに震わせるだけであった。 (うおっと! これはラッキィィー!! よし……そのまま目覚めてくれるなよ?) 不良から見れば俺は冷静を装っちゃいるが、俺の中身は、実は物凄く汗をかくほど緊張していたのだ! 俺の中では「よっしゃ、俺はこんな巨体に勝ったぜ!」という歓喜ではねぇ。 「裏底が鉄製のブーツ履いておいて良かった……全てブーツのお陰だもんな。愛してるぜマイト」という妙な安堵感で包まれていることに、俺以外が気づくことはねぇだろう。 垂れてきた少量の汗を手で拭い、呆然としている不良たちに声を張り上げる。 「残念無念だが、狙った相手が悪かったな。――獲物に狩られる気分はどうだ? 狩られる前に家に帰ってもいいんだぜ?」 困惑している不良共は完全に沈黙した金髪マッチョにチラチラと不安そうに目を配っていた。 (そりゃそうだろうな……。ボスがやられちゃ不安にもなる。身の安全を確保出来ないと分かっているところで甘い言葉でも垂らしときゃあ、こいつらも「き、今日は勘弁してやるぜ!」とか言って帰ってくれるに違いねぇぜ……。ハッハッハ、なんたる完璧な作戦! 『小さな労力で生き残り作戦』は既に最終段階よ!!) 上手い具合に裏通りの埃がもくもくと舞い上がり、視界を若干悪くしているのがその場の臨場感も高め上げる。 (ビビってんな? 誰も動かねぇ……俺の投げかけた逃げるチャンスに引っ掛かってくれる奴はいねぇのか? いや、そろそろ出てくる頃だろう――) 「て……てめぇ…ブッ殺す!!」 ――うぉい! ちょっと待てぃ!
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