出逢い

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 ―4月―  ヤバい!  完全に迷った。  多分、おそらくだけどここは最上級生の教室が集まる校舎。  1年の私がうろつく場所じゃない。  しかも方向分からないし、いるのは3年生ばかり……。  私は誰にも聞くことすら出来ず、ひたすら校内をウロウロしていた。  昼休みにパンを買いに出ただけだった。  なのに迷った。  我ながら見事な方向音痴っぷりだ。 「おい。そこの1年!」  そう言われて私はビクッとなって足を止めた。  絡まれる!  そう思った。  つい先日まで中学生だったのだ。  15歳の男の子と18歳の男の人では、なんて言うか全然別物で……とにかく怖かった。 「もしかして迷子?」  そう言って彼は私の顔を覗き込んだ。  恐る恐る顔を上げてみてビックリした。  その人は笑顔で私を見ていた。  ちょっとだけ安心した私は、小さく頷いた。 「随時遠くまで迷い込んだね」  彼はそう言うと、私の右手を掴んで歩き始めた。  制服は見事に着崩され、その崩れっぷりがまたオシャレで……。  軽快に歩くその姿は、隣の私をみすぼらしくすら見せる。 「1年何組?」 「……2組です」  私は蚊の鳴くような声でそう答えた。 「2組ね。大丈夫、ちゃんと運んであげるから」  彼は私の方を振り返ると、勿体無いくらいの笑顔でそう言った。 image=404414470.jpg
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