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もう、どれほどの距離を歩いているのだろう。辺りの景色は、元いたところとは様変わりしており、随分遠くまで来たことがわかる。
この山を越えた先は、はたして俺が望む安住の地なのか…それとも、地獄なのか。
俺は鬼だから…鬼には地獄の方がお似合いだってか、笑えない。
その男の身体は異様に大きく、筋骨隆々で肌の色は異様なまでに赤い。無造作に乱れた髪からのぞく特徴的な一本の角…そして、暗闇の中鈍く光るその瞳が、胸の奥底に秘められた悲しみをものがたっている。
彼の姿はかつての神話や昔話の中に出てくる鬼そのものである。こんな山奥で、ばったり彼と対峙しようものなら、誰でも恐怖以外は覚えないであろう。
真夜中の山中、当然人影は無く、時折吹き抜ける夜風が木々の葉を揺らす音だけが響いている。
「…誰もいない。」
鬼のような男はぽつり、呟いた。
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