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考えるより早く、与助は横に置いてあった草刈り鎌に手が伸びていた。
娘の白い首筋に向かい、一直線に刃が振り下ろされる。
一瞬、娘の恐怖で涙を浮かべている瞳が目に入ったが、それがなんなのかも、そのときの与助には考えられなかった。
…扉は大量の返り血で真っ赤に染まり、玄関にはもう血溜まりができている。…与助の赤い肌は返り血で真紅になり、その目は怒りに燃えているようだった。
よく朝、事件を知った村人等によって与助は捕らえられ、お奉行様の裁きによって処刑されることになった。
(俺は大変なことをしてしまった、裁きを受けて当然だ。)
与助は冷静になり、自分の冒した罪を悔やんでいた。
いよいよ刑の執行の日、与助は村の中央広場へと連れていかれ、ここでさらし者にされながら死ぬのだ。と覚悟した。
しかし、そのとき…
(さらし者にされ、死ぬくらいならどこか自分にとって安住の地となる場所に行って静かに暮らしていたい。…俺はあのとき確かに人を殺めたが、あのときの俺は本当の鬼だったのかもしれない、…ならば死ぬのは鬼としての与助だ。俺は…心から人間の与助になりたい!)
…そう思った瞬間、頭上から与助の首を落とそうと、武士の刀が振り下ろされた。
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