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(ズバッ!)
広場には多くの見物人がつめかけていたが、刀が振り下ろされた瞬間、皆が袖で目を覆っていた。
そっと袖をどかしてみる。しかし、そこにはあるべきはずの首が転がってはいなかった。
どよめく村人たち…与助の足元には、首の替わりに切れた片方の角が転がっている。
与助は立ち上がり、見物人全員に聞こえるよう、大声で話かけた。
「たった今…今回の犯人、鬼としての与助は死んだ!…この角が鬼としての与助の首だ。そして、今ここにいるのは人間としての与助だ。…人間の与助は無罪だ!」
…与助は刀が振り下ろされる瞬間、首を引いてちょうど片方の角だけが切れるようにしていたのである。
しかし、村人からは…「そんなとんちが通用するか!殺したのはどのみち与助だ!」という声が浴びせられる。
与助は悲壮感の中、村人に問いかけた。
「人としての与助も……ここにいてはいけないのか?」
村人はこの質問に答えず、「早く縄をかけろ、刑をやり直せ!」と口々に怒鳴っている。
「…わかった。…ここには俺のやすらぎはない。」
そうつぶやくと与助は村の出口に向かい、駆け出した。
…途中、耳元を数本の弓矢や怒号がすり抜けていったが、振り返らず、立ち止まらずに駆け抜けた。
…悲しかった。寂しかった。涙も出た。
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