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俺は何も言わずに母が次の言葉を発するのを待った。
「良介、引っ越すぞー。」
母ではなく、楽しそうに父が言った。
「はぁ?引っ越す?何でよ。」
俺は予想外な事に驚いて、テンパってしまった。
俺が怒ると思い、少し不安げな表情を見せていた母が満面の笑みで言った。
「そうなのよ!お父さんの仕事の関係で引っ越す事にしたのよ。仕事の方向性を変えるんだって。ね?お父さん。」
父は適当に返事をして何かを言おうとしたが、俺は先に自分の疑問を投げ掛けた。
「え、なにそれ。転職するって事?なんで今更、折角絵だって有名になって来たのに。」
俺がそう言うと母が言った。
「ううん、違うわ。お父さん、今までは人物画を描いてたでしょ?これからは風景画に挑戦したいんだって。」
父は満足げな表情で頷いていた。
「だからって何で引っ越すんだよ。風景画なんてここでも描けるだろ。」
俺は単純に意味が解らなかったから反論した。
そう言うと父が口を開いた。
「ほら、実際に山だとか自然に触れあった方が良い絵が描ける気がするんだよ。だから田舎に引っ越す事にした。」
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