月の声

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限界まで引き寄せられると、胸元に押しつけられた先生の唇の感触に思わず息をのんだ。 「あつい…の…ぼせる…」 「部屋に戻りたいの?」 「うん、先に出て…」 先生は心配げな表情を浮かべながらも、軽くキスをすると僅かながら笑顔を見せた。 「お前と出会って、自分がこんなに我慢強いってこと初めて知ったよ」 「…ごめん」 「じゃあ続きは…それと大切な話もあるから部屋で待ってるよ」 大切な話…? さっき言ってくれたことじゃなかったの? 先生が浴槽から立つと同時に背中を向け、月を見ながら遠ざかる足音に物寂しさを感じていた。 もう二度と見ることは出来ないかもしれないと思うほどに綺麗な月だった。 先生を追うようにバスタオルを巻くと、浴槽から出てシャワーを浴びに向かう。 部屋へ戻った頃、薄い雲が何重にも重なって、月を隠すように覆っていた。
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