月の声

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一本だったらバレないだろ… ポットに湯を注ぐと冷蔵庫を開けた。 瓶ビールを二本取り出し、ポットを持ってドアから出ると後ろから高瀬に声をかけられる。 聞こえない振りをして、急いで部屋に戻った。 扉を開けると、電気が消えたままで部屋を出る時と変わらない格好で布団の上に座っている。 「せっ…んせい、ごめんなさい…」 「とりあえず落ちついてくれよ。これ、持って来たから飲んで」 テーブルの上に瓶ビールとポットを置いて振り返ると、悲しみに満ちた目で見上げてくる。 目の前に座り込んで顔を覗きこむと、その表情に心が引き裂かれそうな気分だった。 「抱きしめても…いい?」 「…うん」 かすれた小さな声… 抱きしめながらゆっくり背中をさすってやると、弱々しく抱き返してくる。 しばらくの間、黙ったまま抱きしめ合っていた。 湯の流れる音が悲しく部屋にまで響き、二人を通じる不安が寂しく包んでいた。
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