行路

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「等式の証明について説明するから、教科書の92ページ開いて」 片手にファイルを持ち、先生は丁寧に説明しながら黒板に書いていく。 周りがノートに書き写していることにも気付かないまま頬杖をつき、ぼんやりと眺める。 「この例題のように公式を…」 堂々と落ち着いた姿勢で、黒板に書いたものを振り返って生徒に説明している。 昨日の朝方まで…野性的で力強く、自由を奪いながら覆い被さって来た男… 先生の声が少しずつ遠くなる… チョークを持つ手…唇… 「華山、後ろに配って…」 布団の中で、その手と唇が自分の体のどこにあったかを思い出す。 どんなふうに先生に愛されたかを、細かく思い出しているうちに、心臓が少しずつ高鳴っていく。 「華山…」 無理やりに… 遼くん…なんて呼ばされて… 「聞いてんのかよ、早くしろ」 「えっ、だって…遼くんが…」
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