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俺はとりあえず、橘に礼を言うことにした。
「あの、橘さん。私のせいでごめんなさい。ありがとうございました。」
向かい合った席にいる橘は陽気に笑う。
「いやぁ、ぜぇんぜん。か弱い女の子守るのが男ってもんでしょ!」
か弱い女の子、ね。
残念ながら全部ハズレだ。
「でも、ありがとうございます。あの貧乏人演技、素晴らしかったですよ。」
「演技?」
きょとんと聞き返す。
俺もきょとんとしてしまう。
「演技じゃ…ないんですか?」
「うん、俺ん家超貧乏!俺の下に五人妹と弟がいるんだけどさ、これがもぉ育ち盛りで!」
う゛ぅっ!!
典型的なパターンじゃないか!!
「でも…」
急に橘の声のトーンが下がる。
「最近俺引っ越してきてさ…兄弟と離ればなれになってんだ。一応仕送りしてやってっけど、大丈夫かなぁ…。」
兄弟、か。
俺には弟がいるけど、家族と別れるってやっぱり少し寂しいかもな。
そういえば、と今度は明るい顔に変わる。
「君の名前って?」
「ああ、私の名前は桐……」
ちが、本名じゃなくて!
あぶねー!
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