終わりの始まり

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しばらくして、ようやく治まり、そっと目の前の塊を見た。 「………っ、…」 涙が溢れて、顎を伝う。 アルフレッドは嘔吐物まみれのその手で、それに触れた。 ぐちゃり。 寒気がする気持ち悪い感触。 だが、気が付けばそれを抱き締めていた。頬を、擦り寄せていた。 冷たい髪の毛に頬を寄せれば血がついた。 きつく抱き締める程にぼたぼたと溢れていた内蔵が千切れていく。 抱き締め返してくれる腕さえない塊にただ、呆然と涙を流した。 なんて、残酷なんだろう。 しかし自分自身で招いた結果で彼を死なせてしまった。 俺が彼を、殺した。 奥行きも形もない感情を、途方もなくアルフレッドは噛み殺した。 声は出なかった。 声も嗄してしまえば、この身体に残るものは何もないと思った。 せめて彼の名前を呼べるように、声だけは残しておきたかった。 そこで、初めて気付いた。 自由も何もいらなかった。 アルフレッドという人格はアーサーによって成されていたのだと。 アルフレッドの全てはアーサーであると。 そして、まだ少し暖かい彼のそれが雨で冷え切ってしまうまで、抱き締め続けた。 それは異端な姿であったろう。 後ろの部下が全員、眉を潜めていたのだ。 死体を抱き、もはや人ではない肉片に頬を擦り寄せ、涙を流し、その生暖かな血に塗れ、愛おしそうに目線を注ぎ続けるのだから。 きっと理解できない。理解できやしない。 国である彼の気持ちなど、ただの人間には、到底理解し難い。 アルフレッドはただ、この掻き消えないで燻され続ける哀しみに絶望するしかなかった。 、
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