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その刹那であった。
だぁんっ
反応できなかった。
いや、銃弾を避ける真似なんて到底出来やしないが、銃声が響いて身体が硬直した。
しかし、痛みが走ったのは胸でも頭でもなく頬だった。
一筋、うっすらとした傷から血が溢れる。
彼だ。
目を凝らせばすぐ分かった。
銃口から出る煙。
そう遠くはない。
「…アーサー…」
彼が生きていたという事にほっとして踏み出した。
しかし
「来るな!!」
途端に張り詰めた様な彼の声に、脚を止めた。
少し盛り上がっている土の影に隠れていたのだろう。
彼はそこから銃を構えて姿を見せた。
服は、血に塗れすぎていて真っ黒だった。
「…アーサー」
名前を呼んでも、彼はただ、きつく睨みつけてきた。
荒い吐息で、彼は声を震わせる。
「……来るなら、俺を…殺せ。その銃で」
忘れかけていた右手の銃を目線で見つめ、彼をきっと見つめなおした。
「殺さないよ。殺せない」
君だって、俺を殺せないくせに。
再度脚を運ぶ。ぱしゃん。
水が跳ねると彼はびくりと身体を震わせ、緩んだ力を再び銃へと向けた。
「来るな…!!」
そんな顔しても、どんなに俺を睨んでも怖くないよ。
銃口を向けられたって怖くない。
「撃つぞ!!」
そんな脅し文句、似合わないよ。
それに、今撃つと言うならさっき何で俺の心臓を狙わなかったんだい?
恰好の獲物だったろうに。
それが、君の答えなんだろう?
「来るな…っ、来るんじゃない…!!」
ねぇ、アーサー。
「…来るな!!」
睨みつけ大声で圧倒するが、そっと手を伸ばし、アルフレッドはアーサーを抱き寄せた。
アーサーは吐息交じりに苦しく驚きを見せた。
それに涙が誘われるが、噛み締めて堪えた。
雨で濡れた重苦しい軍服が肌に吸い付いて、二人を窮屈に締め付ける。
やっと、こうして抱きしめられたのに、全然嬉しくない。
力無く垂れたアーサーの腕に、血まみれの銃があるせい?
その顔が見たことのない形相に飾られていたせい?
違う。
「…何で泣いてるんだい、君。」
雨に隠れきれない程、彼は、涙を零していたからだ。
肩に染みる雨じゃない雫。
切なくて苦しくて、泣かせたのが自分だという紛れも無い事実にどうしようもない感情でいっぱいになる。
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