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「…もう子供じゃないし、君の弟でもない」
つい最近まで優しく笑いかけていたその頬は強張り、目はぎらぎらと鈍く光っていた。
その深い緑の瞳が、揺らぐ。
「たった今、…君から独立する」
独りで立ちたいんだ。
君の手を煩わせるだけの存在じゃない。
君の手を取りたいんだ。
彼は何も言わなかった。
ただ、
ばしゃん。
水が、跳ねた。
「―っ!!」
一瞬で彼は、小柄な体型を利用してアルフレッドの懐(ふところ)に入り込もうとしたのだ。
彼は銃口ではなく、その先っぽの小さなナイフで胸を穿とうと―…
その刹那、アルフレッドの真後ろ、大きな声で命令が下された。
その単語を理解する前にアルフレッドは彼等がやろうとする行動を理解し、後ろを振り返った。
この全てが一瞬の出来事である。
だが、この一瞬で彼の声は届かず声に対応できる力など人間にはありはしない。
命令に従う大勢は引き金を引き。
命令を下した者は、振り返るアルフレッドに目を剥き。
アルフレッドは喉を嗄らす程に叫び。
緑の瞳は、最後に一つ、涙を零した。
耳を貫いた幾つもの銃声が後ろに直撃した。
見事に自分だけを避け、貫かれたそれは力を無くして崩れ落ちた。
アルフレッドの叫んだ声が、遠くで反響し雨音で掻き消えていく。
ざあああ。
雨に、どろりと血が交じった。
それがアルフレッドの足元に流れる。
それを辿ってアルフレッドはゆっくりと後ろを振り返った。
そこには肉片が散らばっていた。
血が、内蔵が、目が、皮膚が、頭が、髪の毛が、骨が、肉が、そこにあった。
今まで見たどの死体より酷く、無残なそれ。
形を成さないそれは人と理解するのに時間を要した。
「…………アーサー?」
アルフレッドは銃を落とした。
歩み、次第に駆け足になる速度に視界をくらまそうと雨粒が瞼を叩いた。
だが、それも虚しく、肉片の中に彼の服を見つけた。
全身を銃弾によって犯され、彼の綺麗だった瞳は剥き出しに白目を向いていた。
ぐちゃぐちゃになって吹き飛んでいる頭から血が止まらなくて、溢れ出して金髪を染め上げていく。
「…っ、ぐ、ぅおぇぇえ…っ」
その血生臭い匂いに、思わず膝をついて嘔吐した。
涙が流れる程、胃酸で喉が焼かれているのに、止まらなかった。
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