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「おい村井、二時間前くらいにこの近くで結界が張られたらしいんだが、知らないか」
色は違うがいつものジャージ姿である。今日は黒地にグレーのラインが入ったものを着込んでいる。寒くないのか?デュカスはある意味感心した。
「知らん、誰が言ってるんだ」
「エルフからの報告だ」
確かにエルフのなかには魔法の起動を感じとれる者もいる。
「あそう、俺は知らんからもう帰れ、仕事の邪魔だ」
「客いねえじゃねえか」
軍隊調に刈り上げた短髪男を無視して横を向くデュカス。
「村井、こないだシュエル・ロウで化け物倒して賢者会から何も褒美ないのか、刑が軽くなるとか」
「や、何も、そのうち移民局に訊こうとは思ってるんだが」
「はよ出てけよ」
「来る度にそれ言うね」
「結界もお前関連じゃないのか」
「何でも俺のせいにすんのやめたら?」
「お前のせいでここの監視が厳しいんじゃないか、みんな迷惑してる」
もう聞き飽きた。毎回これである。ここ一帯は魔法界シュエル・ロウからの移民で形成されている。彼は移民二世でどうやらこの地域の首長から村井潔──デュカスの日本名である──担当に命じられているらしい。
「だから移民局に申し出なさいって」
デュカスをとりまく移民社会は、デュカスの父親殺しという罪状と彼が王族であること、他の移民たちと関わろうとしないことなどに反感を抱いているようで有形無形の圧力を合法的というか刑法に触れない手段によってかけてくる。
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