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デュカスはもう慣れていた。十年続いているのだ。これは彼にとってここニホン社会そのものである。
「迷惑かけて平気ってことだろ」
「しつこい」
空圧魔法で弾き飛ばしたいところだがここでの魔法使用は原則禁止である。生活に最低限必要な魔法は移民局に申請し許可を得れば使えるが攻撃魔法に許可が下りるわけもない。
「ここに俺を送り込んだのは賢者会の決定。俺に文句を言うのは筋違い。シュエルに何がしか申し出があるときは移民管理事務局を通す」
「はあ?お前の問題だろうが。よその県でも離島にでも行けばいいだろうが。そこまで移民局が文句言うかね?」
「旅行なら行きたいから…長期旅行の資金さえもらえれば、その期間はいなくなるね」
「誰が払うか。なめとんのか」
「客商売の場で脅しか。営業妨害…」
と、入り口のドアの向こうで客の姿が見えた。二人連れである。
「さ、出てった、営業中」
「くそ!こんな店、いつでも」
それはできないだろう。べつに、様々な事情に気を遣ってデュカスはここでの揉め事に魔法を使わないでいるだけだ。ほんとうのところデュカスが魔法使用の原則禁止などというものを気になどしていないことは香坂も知っている。デュカスは己のモラルに従っているだけなのだ。香坂は出ていき、入れ違いに客の二人が入ってくる。初老の男と三十すぎの女。
デュカスは凍りついた。
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