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「……で、お前が隊長になれたのは実力だけなのか?隊長になる前は…別の奴が隊長だったんだろ?ほら、こないだ電話でお前が言ってた……リン…リン……リンゴさん?」
『ちーがーうーよー、リンゴさんじゃなくてリンドウさん!!果物じゃなくて花の名前なの!!』
「そうそう、そのリンドウさんとやらはどうなったんだ?別の支部に移動したとか……殉職か?」
『………』
「………」
『………』
「………?」
耳元から、何の音もしない。
まるで人が切り替わったかの様に、騒がしい声が聞こえなくなった。
妹が造る沈黙に、リンドウという人間は後者の運命を辿った事が分かった。
それに胸が痛んだツカサは苦虫を噛み潰した様な、苦い表情を浮かべた。
この様なカタチで彼女が隊長になっても、本人は決して喜べないだろう。
「……悪かった、こういうのは軽々しく聞くモンじゃなかったな」
『いいのいいの!!大丈夫、リンドウさんとは同じ部隊ってだけであんまり話しなかったしほぼ他人みたいな存在だよ!!私以外の人達はそうでもなかったけど……私は全っ然、悲しくなかったよ!!むしろ嬉しいよ!!あの人が死んだお陰で私が隊長になれたんだから!!』
ツカサは驚いた。
妹が元気で明るい声を発して沈黙を無かったかの様にしようとしたからではない。
妹が、相手の死という不幸を喜劇として喜び声を上げているからだ。
彼女は自分や両親、そして関わりの少ない両親の仕事の部下が怪我をしたり仕事を失敗して落ち込んだ時はとても心配し、励まし続ける程、優しい少女なのだ。
時にはからかう事もしたが、他人の死を笑う程、残酷な人間では決してなかった。
『……兄ちゃん?』
「…ん、ああ……」
『私この後、資料の整理しなきゃいけないから、またね』
「………そうか、おやすみ」
『うん、おやす――』
―――ブツッ
「………」
「おやすみ」と言い切る前に、相手側から電話を切られた。
「………」
他人の死を笑う妹。
そんな彼女に複雑な感情を抱いたのは、初めての事だった。
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