2つの決意、そして無力の罪

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「この階、だったよな…?」 アナグラの中に入り、最初に会ったオペレーターにリムの兄という事を隠し、友人として彼女の居場所を聞いた。 すると驚いた事にオペレーターの女性はあっさりと居場所を答えた。 場所は病室で、2日前に負傷を負い入院していて、今は任務に行ける程度に傷が治るのを待つだけで、本人はいたって元気だとの事だ。 かなり悪い予感をしていたツカサはその説明に安堵して今、オペレーターが教えてくれた病室のある階へとエレベーターを動かしていた。 ―――プシューッ 「………」 自動ドアが完全に開き、廊下へ一歩、足を踏み出した。 妹に会ったら最初になんて言おうかと、欲しかったゲームを待ちわびる子供の様な期待に満ちた表情でオペレーターが説明した道を辿る。 そして病室の扉を見つけた。 「……リム…」 ポツリと今すぐに会いたい人間の名を呟き、病室の前に立った。 そして扉に手を掛け様とした瞬間、扉の先から男の声がツカサの耳に飛び込んだ。 「なら俺は任務に行くからな」 ―――プシューッ ―――ドンッ 「……痛っ!!」 「………っ…!!」 扉の前で呆然としていたツカサに、開いた扉から出て来た声の主らしき人物と肩がぶつかった。 ツカサは謝ろうと素早く一歩後ろに下がり、ぶつかった男の顔を見る前に深々と頭を下げた。 「すっ…すいません…!!」 「チィッ…ちゃんと前を見ろ」 頭を下げたツカサに、不機嫌丸出しの声が放たれる。 その一言で、自分は苦手なタイプの人物とぶつかってしまったのだなと一瞬怖じ気ついてしまった。 一旦間を置いて、チラリとぶつかった男の顔色を窺った――が、男はツカサが頭を下げている間に、背を向け廊下を歩いていた。 唯一見れたのは、不機嫌そうにブツブツと独り言を呟きながら廊下を歩く、頭の所々に可愛らしい癖っ毛を生やした金髪に、ブラウスとジーンズと黒いブーツを身に纏った男の背中だけだった。
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