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「全員いるな」
エレベーターから降りたツバキは周囲を見回すといつもの立ち位置に立ち、手元のファイルに挟まれた紙を見た。
「なるほど、な…。よし、ブリーフィングを始める」
そしてツバキが語ったブリーフィングの内容、それは以前リム達が廃寺院で見つけた雨宮リンドウの腕輪を体内に収めたアラガミ――ディアウス・ピターの討伐、そして腕輪の回収だった。
初めて聞いたわけではないが、交戦歴が僅かな事からディアウス・ピターのデータは少ない事をツカサは知っていた。
今からリムはそんなアラガミと戦うのだと思うとどうしても不安になってしまう。
そう妹を心配しているツカサに、ツバキから衝撃的な言葉が放たれた。
「今回の任務はソーマとサクヤとアリサ、そしてツカサが向かう事になった」
「……え?」
ツカサは耳を疑った。
何故自分なのか、と。
自分より優秀な人間ならいるじゃないか。
そう口に出そうとツカサがする前に、隣から怒声が響いた。
その声の主は言うまでもなく――
「待って下さい教官!!ツカサはここに来てからまだ1ヶ月も経たない新人なのですよ!?そんな彼を新種の前に出すなんてアラガミに餌を与えているのと同じ事です!!この任務、ツカサではなく私が行くべきですよ!!」
名を上げられなかった、リムだった。
彼女が普段"兄ちゃん"と呼んでいるのを"ツカサ"に替えたのは、ツカサが神機使いになってすぐツバキに「仕事では"兄と妹"ではなく"部下と上司"の関係で取り組め」と言われたからツカサを兄でなく部下として接する為にそのままの名前で呼んでいるのだ。
ツカサをアラガミの餌と形容するのはおかしいが、それ以外のリムの言葉には彼の意見とほぼ一致している。
そのリムの必死に訴えを聞き、ツバキは顔色ひとつ変えずに言い放った。
「アリサから聞いたぞ。お前が廃寺院に行った次の日の任務先でノーマルのシユウ相手に腰を打撲し頭を強打して途中任務を抜けた……と」
その言葉に、リムはバッと後ろに立っている蒼い双眼の少女――アリサ・イリーニチナ・アミエーラを睨み付けた。
その目には怒りと羞恥が入り混じっている。
そんなリム見たツカサは、背筋におぞましい寒気を感じた。
そして睨まれたアリサは気まずそうに視線を床に落とし、「ごめんなさい…」と呟いた。
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