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「やれやれじゃの」
この世で最も厄介であろうパートナーの寝息を確認すると、リリスは腕を頭上へ伸ばしその小さな体の緊張を解した。
この試験が始まって間もなく、謀ったように大勢の生徒に襲われ、流石のリリスも少し気を張っていたのだ。
稀有なチカラを持ち、余りある歳月により磨かれたリリスは確かに強い。
それは3Sランクも狙えるくらいに。
しかし、リリスには決定的に足りないもの、弱点があった。
それは体力の無さだ。
いくら魔力があり多くの属性を使えても、それを支えるにはリリスの体は小さすぎた。
だからと言ってこんな魔法学校の生徒程度が何人束になろうとリリスが遅れを取ることはない。
ただ人間の、しかも自分より遥かに劣る者に対してやりすぎてしまわないよう無意識に過剰な制御をしてしまう、と言う意味での緊張だ。
いつ何時、自分の中の膨大なチカラが暴走しないか。
付け加えるなら、そんな自分の危険性を誰よりも知っているからこそリリスは引きこもり体質だった。
創始者や零についてきたのも、もしもの時に自分を止めてくれるような抑止力を無意識下で望んだ結果だろう。
そして自分の引きこもっていた理由についてストレージの件は一つのきっかけに過ぎなかったことをリリスは心のどこかではわかっている。
振り返り見る零の寝顔に思わず零れた柔かい笑顔はその証拠には十分過ぎる程垢抜けていた。
「わしも今から何をしようかのう」
零を寝かしたはいいものの、当のリリスも暇を持て余していることについては例外ではない。
太陽の登り始めた空は広く、それを見上げるリリスは自分の小ささを改めて提示されているような気分になる。
しかし、そのことについて負の感情が沸き上がってくることはない。
「去年までのわしは一体何をしておったか」
この半年は零と色々なところへ行き色々なことをした。
その所為か少し前までの年中独りで引きこもっていた自分、その膨大な時間をどう過ごしていたかをうまく思い出せない。
だが、この暇はとても居心地よく感じていることもまた事実。
何をしようかと腕を組むリリスだったが、それはすぐに解消された。
木々の合間に動くオレンジ色を見つけた。
それはふらふらとこちらに近付いてくる。
普通に考えて生徒だろう。
その生徒はリリスに気付くこともなく森を抜けるとリリスのいる開けた場所へと出てきた。
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