居士閃影

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江戸も末期の頃であったろうか。橘曙覧(タチバナノアケミ)という一人の学者が居た。楽しみは……の連作でよく知られる歌人でもあったが、知っている人は知っているが、知らない人は知らないであろう……まぁ短歌に興味の無い人間ならば99%知らないような部類の人間だ。 私自身が彼の作品集と出会ったのはいつの頃であったろうか。知人より『君が好きそうな作品ばかりだよ』と言われ読んでみたのが最初。それから幾度となくその一冊のみを読み返していた時期すらあった。貧乏であり静謐なる歌人、橘曙覧。以下は私の最も好きな一首である。 隠世に入るともわれは現世にあると等しく歌を詠むのみ この一首に込められた彼の遺志を汲み取れる日がくるのはいつの事であろう。未熟な私がその域に達するまで何年かかるかは分からない。もしかしたら明日には投げ出しているかもしれない。しかしこの拙文を綴る今だけは、彼を崇拝する信者とも呼べる存在でありたいと私は願っている。
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