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弟子と師匠は比較的壊れていない民家を見つけ、扉を開けて中に入った。
鼻をつくのは、腐臭。どろりとした粘り気の残る匂いが、そこに充満していた。
「……骨が散らばってますね。魔物に食い散らかされた子供でしょうか」
淡々と言う弟子の、すぐ近くには小さな靴。くまのぬいぐるみ。そして、子供の骨が散らばっているすぐ側には、明らかに子供ではない黄ばんだ骨。
「……っ!!」
それを見た師匠は声にならない声をあげた。
その子の親だろうか。
師匠の心の内には虚しさや悔しさがねっとりと纏わりつく。
その頬を涙が伝う。その暖かい雫は弟子の瞳に移り――。
「どうして泣いているんですか、師匠」
その純粋な言葉に師匠は、ただ「悔しくて、悲しいんだ」と答えた。
「それは利己の涙じゃないですか」
利己の涙。弟子はそう言って、「馬鹿馬鹿しい」と、そう呟き散らばる骨を踏みつけながら奥へと進む。
それを見た師匠は右の拳を握りしめる。
「君は……君はこれを見て何も感じないのか!」
弟子の動きが止まる。
それから振り向き、その言葉の意味がわからない、と言うような顔をして。
「どういう意味ですか?」
顔だけでなく、言葉でもそれを示した。わからない、と。
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