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「そして、誰に向かって口聞いてんですか、どっちが上がわかってんですか」
弟子は師匠の首を掴み、そのまま押し倒す。
「なっ……!!」
身動きができない。体に力が入らない。師匠はただ、その腕を払いのけることに必死だった。
「師匠? どうしました?」
不思議そうに弟子の口から唱えられるその言葉に、師匠は呆然としたまま「どうしたって……」と返す。
「こんな感じで押しつけるくらい、いつもしているでしょう?」
師匠はそこでやっと気づいた。
自分が弟子に対して怯えていることに。怖い、と感じてしまったことに。
「普通はね、人が死んでたら動揺するんだよ。悲しくて、怖くなる。その人はもう戻ってこないんだよ。知らない人でも、それは同じだ。確かに利己的な涙かもしれない。でも……私は」
師匠は自分自身を取り戻すかのように、言葉を紡ぐ。あわよくば、弟子に届けばいい、そう信じて。
「私は、少しでもそういう人を減らしたい。偽善的と言われてもかまわないよ。君がした行為は……君にとってはただ歩くだけだったのかもしれない。でも、私にとっては――」
「なんだ、僕が骨を踏んだことに怒っているんですか、師匠。なら早く言ってくださいよ」
無関心に、真の部分で言葉を理解していない。彼には、自分の声は届かない。
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