その町、魔物の巣につき。

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【何者だ】 【立ち去れ】 【立ち去れ】  師匠と弟子がその声に耳を傾けた時には、円を描くように狼型の魔物に包囲されていた。  師匠はゆっくりと刀を抜き、狼の一匹にその切っ先を向ける。  弟子は何もせずに、ただただ狼と対峙する師匠を遠いところから眺めるかのように、他人事のように見ていた。 「……やっぱり、他人のために泣くのはエゴです。師匠」  自身で結論を出したように、そう呟く弟子。 「僕は、貴方が死んでも泣かないと思います」  その言葉が、師匠の耳に入った。彼は少しだけ、傷ついた心を隠しながら言葉を紡ぎ始める。 「私も、君が死んでも泣かないと思うよ」 「笑ってあげる。君が寂しくないように。君が安心できるように」  そう言った師匠は、弟子に笑顔を向けている。弟子は、ただただ無表情にそれを見ていて。
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