40人が本棚に入れています
本棚に追加
次の瞬間、倒れたのは師匠だった。
弟子の右腕には深々と師匠が持つ刀が突き刺さり、その左手は師匠の腹に鋭い衝撃を与える。
「肉を斬らせてなんとやら、です。師匠」
淡々と、自身の右腕から流れる血を見てそう零す弟子。
「師匠が気絶したから僕の勝ちですね」
どこか楽しそうに、弟子はそう呟いた。鈴の音は、響かない。
師匠はむくりと起き上がる。その痛みに耐えるように、一瞬だけ笑顔を作り。
血相を変えて弟子の右腕を掴む。
「弟子君、ほら! 早く手当てしないと!」
焦ったように師匠は弟子の体を引き寄せる。荷物の中から薬草と包帯を取り出し、丁寧に消毒をしていく。
「うわぁ……ばっくりだよ……なんであそこで突っ込んで来たの!」
「そうしないと勝てなさそうだったんで」
「無理矢理勝とうとしなくていいの! もー! うわ痛そう……」
弟子は師匠の言葉を聞かず、考えを巡らせる。
――この人は何故、自分も痛いはずなのに僕のことを優先するのだろうか。
――この人は何故、僕の面倒を見てくれているのだろうか。
――僕は何故、この人と一緒にいるのだろうか。
「だいたいねぇ、真剣でやるなんていきなりどうしたの! 竹刀があるでしょ竹刀が! ちょっと弟子君、聞いてる!?」
「すみません十割くらい聞いてませんでした。真剣でやりたい気分だったからです」
「全部聞いてないんじゃないか! 気分って、この弟子……! ふっ……あはははは、もー、怒る気もなくなっちゃったよ」
――この人は何故、僕に笑いかけられる?
最初のコメントを投稿しよう!