その旅、続ける理由。

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 次の瞬間、倒れたのは師匠だった。  弟子の右腕には深々と師匠が持つ刀が突き刺さり、その左手は師匠の腹に鋭い衝撃を与える。 「肉を斬らせてなんとやら、です。師匠」  淡々と、自身の右腕から流れる血を見てそう零す弟子。 「師匠が気絶したから僕の勝ちですね」  どこか楽しそうに、弟子はそう呟いた。鈴の音は、響かない。  師匠はむくりと起き上がる。その痛みに耐えるように、一瞬だけ笑顔を作り。  血相を変えて弟子の右腕を掴む。 「弟子君、ほら! 早く手当てしないと!」  焦ったように師匠は弟子の体を引き寄せる。荷物の中から薬草と包帯を取り出し、丁寧に消毒をしていく。 「うわぁ……ばっくりだよ……なんであそこで突っ込んで来たの!」 「そうしないと勝てなさそうだったんで」 「無理矢理勝とうとしなくていいの! もー! うわ痛そう……」  弟子は師匠の言葉を聞かず、考えを巡らせる。  ――この人は何故、自分も痛いはずなのに僕のことを優先するのだろうか。  ――この人は何故、僕の面倒を見てくれているのだろうか。  ――僕は何故、この人と一緒にいるのだろうか。 「だいたいねぇ、真剣でやるなんていきなりどうしたの! 竹刀があるでしょ竹刀が! ちょっと弟子君、聞いてる!?」 「すみません十割くらい聞いてませんでした。真剣でやりたい気分だったからです」 「全部聞いてないんじゃないか! 気分って、この弟子……! ふっ……あはははは、もー、怒る気もなくなっちゃったよ」  ――この人は何故、僕に笑いかけられる?
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