その弟子、師匠を敬わない。

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「僕は嫌です」  冷静に、淡々と、無表情に。彼はそう呟いた。本当にこの上なく嫌そうな、潔癖症の人がゴミを見ているかのような表情である。 「だって弟子君と一緒に旅したいんだもの」  えぐえぐとしゃくりあげる中年男性――師匠。弟子の青年は無言で師匠に近づき、その姿をじっと見つめる。 「……」 「……?」  弟子の視線に気づいたのか師匠は勢いよく顔をあげた。 「しょうがないですね」  少し困ったようにその声は切り出され、師匠の期待は高まり。 「本当!?」 「嫌です」  そう言うと同時に弟子は師匠の背後から腰に腕を回し、がっちり掴んだまま後方に反り投げる。見事なブリッジ体勢。そう、ジャーマンスープレックスである。  地面に奇声をあげて突き刺さる師匠。 「師匠があまりにもしつこいからジャーマン出ちゃったじゃないですか、どうしてくれるんですか。あとゲロ臭いんで息吐かないでください」  気絶した師匠に降りかかる容赦ない罵声。これがいつもの弟子である。
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