ザンゲルと夜想曲 #潮風の街から#

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潮風誘う窓辺が私の特等席だった。 窓から吹き込んでくる温かい香りとパスタを茹でているような香りに目を細め、 私は表を見た。 向こうには真っ青な海。 商船が沢山並んで、市場のざわめきが微かに。 オレンジや白の家々はメルヘンだが歴史を感じる。 窓辺の花たち。 濃い緑の葉 屋根で伸びをする猫、海に負けない青い空 ここは、長閑だ。 前髪が邪魔だ… ここに来てもうどのくらいたったろうか??ここに来て短く切った髪が長くなるほど。 通りから見知った声がした。 石畳の坂のところに妹と宿場のママが話し込んでいる。 ママは相変わらず大きな声。貧しいがセンスのいいエプロンをしている。 妹は元から琥珀のような自然な巻き毛をくるりと器用にまとめている。 輝きを放っているのはそれだけではない。 ここは町でも奥に通じる入口で人は閑散としているが妹がいるなら別だ。 ふっくらとした体つき 真ん丸の黒い瞳 明るい笑い声 華やかなカゴと雰囲気。 服は質素だが妹は男性に人気だった。 もうひとり町には有名な美女がいる。酒場でピアノを弾いている。 船乗りは必ず彼女に恋をすると言われているが言い寄るまでには何故かいかない。 妹はとにかく声をかけられた。今も町のものが妹を見ながら通りすぎていく。 と、言うのに彼女は彼氏をつくらない。 妹はおばさんから離れてこちらのアパートに姿を消した。 町の者はその後ろ姿を追い、こちらのアパートの輪郭をなぞり妹が帰る部屋があるだろう所まで来て… 急いで目を反らし、いつもの町の空気を泳ぎだした。 目があった私は瞳を乾かす風に目を細め、文庫本を開いた。
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