0人が本棚に入れています
本棚に追加
階段が軋む音。
このアパートは風が吹いても軋む。
古い木造だ。
倒れそうな悲鳴をあげる。
管理人の下の階の老紳士は
『大丈夫だぁよぉ。この家は隙間空いてっから、通り抜けるれ~ヒャハハ』
と言っていた。
掃除が確かに意味ない、プライバシーは守れるが外なのか中なのか分からないような野性的な家。
「お姉ちゃんごめんね!ママに捕まっちゃてね!…あ、見てたよね」
妹は姉の窓辺の簡素な打ちっぱなしの木のテーブルに頬杖つき、目を細めたという動作を見ただけで理解したようだ。
「オレンジ貰ったんだ~」
「ふ~ん。誰から??」
「でね、港の金物屋さんの先の果物屋さんあるでしょ??レモンが奇跡の6ピールで売ってる」
「…で?」
聞いてないのか、あえてなのかは一瞬考えるが、考えてると話題は通りすぎていく…。無かったことにいつもしている。
私は買い物はしない。以前やってみたら家事というのが分かってないと一刀両断された。私の仕事はおまけに夜の仕事。
知らない上に知るわけがない。
「そこのおばあちゃんがお嫁さんと食の好みが合わないんだって。パスタとか食べたいのにサンドイッチが良いって。トマトソースにモッツァレラたっぷりの温かいパスタじゃないと、って」
「ほー」
妹は感慨深げにため息をつき、ティーポッドを用意しつつ
「そしたら無性にサンドイッチが食べたくなっちゃって」
妹は買い物カゴからライ麦パンを取り出した。
「おばあさんのパスタ談義が無下になったが…」
「でね、タマゴもおまけで2パックもらっちゃったからね、丁度良いな~って」
そこのオヤジ…おじさんはいつも君に色々持たすじゃないか。魚屋なのに。
最初のコメントを投稿しよう!