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そう言い終えた直後、黒い影がまるで風に乗ったかのようにアシュレイの横を通り過ぎた。
それは余りにも速く、アシュレイは悪魔が消えたと思ってしまったほどだ。
慌てて、右、左、後ろと視線を走らせる。
悪魔はアシュレイの後方、離れた場所に悠然と立っていた。
見つけたとほぼ同時に、アシュレイの足が強く地を蹴る。
「この距離、暗さで見えるとは……。どこでそんな視力を手に入れたんだか」
驚いたような口振りだが、余裕の態度は崩さない悪魔。
だるそうに、ゆっくりと胸の前に両手の拳を構える。
途端に、その拳を黒いバラの棘に似た突起が覆い始める。
しかしアシュレイはひるまない。
彼の心はすでに負の念を忘れるほど、闘志に満ちていた。
一方、一心不乱に向かってくる少年に、悪魔は失笑していた。
「おいおい。武器を持たずに向かってくるなんて、アホらしいにもほどがあんぞ」
そう。アシュレイの剣はレオに飛ばされたまま。
だが、短剣は服の内側に隠れている。悪魔は気付いていない。
アシュレイの頭は冷静に判断していた。
攻撃の手段、そして悪魔のすぐ後ろには、必ず必要になる長剣があることを。
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