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途端に二人は、時が止まったかのように動かなくなる。
一方は呆然と立ち尽くしているようで、もう一方は剣を振り上げた低めの姿勢である。
鉄製の剣が乾いた地に落ち、静かな夜に音を響かした。
剣をしっかりと両手に握っている少年――レオはその剣を天に向かって突き上げる。
それが意味するのは勝利。
月光に薄く照らされた顔にはやはり勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。
レオはゆっくりと剣先に視線を移し、嬉しそうに言う。
「俺の勝ち、だな。アシュレイ」
嫌味ったらしく目を細め、さぞかし楽しそうに視線を下ろす。
だが、レオの視界にアシュレイの姿はない。
慌てて後ろを振り返ろうとしたレオだったが、そうする前に表情が凍りつく。
首筋にひんやりとした何かが当たったのだ。
そぉっと視線を首に移していくと、そこには銀に輝く短剣。
その瞬間、レオは思わず額をたたいた。
小さくため息を吐き、振り返る。そこには銀髪の隙間から覗くうっすら緑がかった眼。
その眼の持ち主アシュレイはレオと目が合うなり、嬉しそうに口元を歪め、短剣をゆっくりと懐にしまう。
今までの殺気は嘘のように消えていた。
今までの戦いは、一つの手合わせだったようだ。
「剣を飛ばしたぐらいで勝った気にならないで欲しいねぇ」
「……そんなのありかよ?」
「特訓とは言え、実際の戦いを考えてやればこれぐらい当たり前だろ?」
「……くっそ、悔しいなぁ!」
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