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夜の涼しい風を服にパタパタと通しているレオを横目で一瞥すると、なにやらアシュレイはまたも不安げに俯く。
驚いたレオは汗を乾かすのを止め、慌てたようにアシュレイの肩へ手をかけた。
「あ、俺なんかまずいこと言ったか?」
「……いや。その……まさか、本気な訳ないよな?」
恐る恐るといった様子のアシュレイに対し、レオは堂々と笑い飛ばした。
「はっはっはっは! んなわけねえだろ。ただの冗談だよ」
そうは言われたが、アシュレイはまだ多少胸に不思議な違和感を覚えている。
しかし、レオはそんなことなど気にもせず、突然何か思い出したように口を開く。
「なぁ。それより、なんで悪魔が『朱』、天使が『碧』って言われてるか知ってるか? 前から聞こうと思ってたんだが」
レオの明るい口調といつもと変わらぬ様子に、アシュレイは先程からある違和感を振り払うように、明るい声音で答えた。
「ああ、知ってるよ! 悪魔が背中にはやしてる翼は朱色<アカイロ>で天使がはやしてるのは碧色<アオイロ>だったからだろ?」
「さすがアシュレイ! やっぱ知って――」
――バサッ。
何かが羽ばたくような音。
その音に言葉はかき消され、勢いよく吹き付ける風に二人の髪がなびく。
そして背後から、聞き覚えのない低い声が発せられる。
「それは少し違うな。悪魔の場合、右翼は赤、左翼は黄。混ぜたら朱色。天使は右が緑、左が青。合わせて碧色<ヘキショク>。ってわけだ。あくまで、これは昔の話だがな」
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