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胸が――高鳴っていた。
憂いを帯びた彼女の瞳が、真っ直ぐに僕を見つめている。
女性経験は自慢できるほど豊富ではないが、それはなにかを求めているような…そんな気がした。
ゆっくりと立ち上がり、僕は静かに月詩に近づく。
伸ばした右手が彼女の頬に触れそうになった――その瞬間――
彼女はついと窓の外へ顔を向けた。
反射的に、僕は手を引っ込める。
「奇妙な天気だと思わない?」
桜とともに舞い散る雪を眺めて月詩が呟いた。
拒まれた――そんな不安から、僕は「…そうだね」と頷くことしかできない。
「どうしてこんな天気になったんだと思う」
「…さあ」
生頷きしか返さない僕をよそに、彼女は妖しくも冷たい笑みをうっすらと浮かべた。
そして――
「霊が獲物を逃がさないためよ」
冗談じみたその台詞に、しかしながら僕の背中は凍りつく。
「霊は生きている人間が妬ましい。だから彼らを道連れにしようとするの。獲物と定めた人間が逃げられないよう檻に閉じ込めて、じわりじわりとね」
淡々と語る月詩。
僕はごくりっと音を立てて固唾を呑み込んだ。
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