散花

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ところが月詩はそれからなにも言わず、少ししてグスッと鼻をすすり始めた。 焦りを覚えるが、もしかしたらまた演技かもしれないとすぐには声をかけない。 「…ごめん、なさい…まさか、怒るなんて、思ってなかったから…」 そんな泣き声が聞こえて、僕は慌てて彼女に駆け寄った。 見れば両手で顔を押さえ、肩をしゃくり上げている。 「ごめん、僕のほうこそ悪かったよ!もう怒ってないから!」 「…本当に?」 「本当本当!」 「私のいたずら、許して、くれる…?」 「うん、許す許す!」 「ふふっ、じゃあもう泣かない☆」 そう言って両手を開く彼女。 その顔に涙の跡などはなく、人をからかうあの笑顔があった。 「………!」 「また騙されちゃったね」 嬉しそうに言う月詩に、僕はもはや呆れるしかない。 目を瞑り、大きく嘆息を漏らす。 と―― 「大変なこともひっくるめて人生は楽しまなきゃいけないんでしょ?」 すぐ近くで、彼女の声がした。
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