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僕は大きく嘆息して、彼女に向き直る。
「大丈夫?」
顔を上げた彼女は柔らかな微笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。
「私、自分の名前をきれいなんて言われたの初めてだからうれしいな」
「そうなの?」
「うん。もしよければ私のこと××って呼んでね」
「そうするよ。えっと、僕は…」
「服部千尋クン、でしょ?」
「知ってたんだ?」
「委員長サンの名前だもの、知ってるよ――よろしくね、千尋クン」
「よろしく、××」
僕は、差し出された彼女の白い手を強く強く握り締めた。
しかし――
以来彼女の姿を見ることは2度となかった。
担任の話では、彼女は元々身体が弱く、幼い頃からほとんどの時間を病院で過ごしてきたらしい。
そしてその日の夜も、持病の発作が出てまた入院をしてしまったとのことだった。
すぐにまた彼女に会えるだろう――
その時の僕は安易にそんなことを思っていたが。
しかし彼女と再会することなく小学校を卒業し、更に中学校を卒業する頃には彼女のことなど完全に忘れてしまっていた。
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