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3ヶ月が経ち、常連客の顔もひととおり覚えたころに、見慣れない一人の若い女性がお店に入ってきた。
周りの見渡し方から、彼女がこのお店に来たのは初めてであることがわかる。
どこに座るかを躊躇しながらも少しずつ前に進み、結局入ってすぐのカウンター左隅に落ち着いた。
「いらっしゃいませ。」
常連客が多いせいか、この言葉を発するのも久しぶりだと、けんは思った。
最近は皆、「けんくん、いつもの。」とお店のドアを開けて即言い、定位置につく為、けんは「はい。」としか答えなくていいようになっていた。
女性はメニューをじっと見つめていたかと思うと、注文をするでもなく周りを見渡し、また少ししてからメニューをみることを繰り返していた。
「お決まりですか?」
10分以上経っただろうか?
見兼ねてけんから声をかけた。
「あ、ごめんなさい。まだなんです。というより、なんだか決めようとしたら違うことを考えてしまってその繰り返しで。」
女性は気まずそうに、苦笑いをして答えた。
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