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「ではどうぞ。」
男は言った。
「いえ、結構です。鉢が当たったわけでもなく、逆に僕は、あなたに転ぶのを助けてもらったんですから。」
「いいんだよ。助けられてよかったよ。あれで転んでたら大変な惨事だったからね。さあ入って入って。」
男は有無を言わさず、お店の中に案内をした。彼は面倒なことになったと一瞬思ったが、ここで断り続けてもさらに面倒が続くだけだとあきらめ、中に入ることにした。
「あ!ちょっと待ってて。」
といって男はまた外に出ていった。
暗がりのなかに長いカウンターが見えた。
椅子は7、8個並んでいた。
こぢんまりとした空間にセンスの良い洋風のキャンドルの形をした電気が3個灯されている。
とても落ち着ける雰囲気のお店であるが、何故かお客は一人もいなかった。
(いごこちのいい空間だな。こんな空間があったとは。)
「おまたせ。はい、これ。」
男はそういって、さっきころびそうになった時に路地にばら撒いてしまった小銭を手渡した。
「あ、すみません。」
「いいんだよ。鉢植えも片付けて来たよ。あのままにしておくと他にも君のような被害者が出るかもしれないからね。そうなったら、りくさんが大変なことになっちゃうもんな。」
やさしい笑顔で男は彼に微笑んだ。
「ここで働かせて下さい。」
唐突に彼は目の前にいる店長に言った。
「それはいいけど、けんくん、君は何歳?」
店長は微笑みながら答えた。
「18歳です。3月に高校を卒業しました。
まだ部屋とかも決めてないですけど、すぐに決めますから。」
「君には独特な雰囲気があるな。君ならこの店の一部になれるかもな。そうだ、もしよかったら、この裏に一つ部屋があるんだよ。そこを使わないか?僕がたまに使っているんだけど、他にも部屋があるんだよ。あ、でも見たとおり、お客は来たり来なかったりなんで、お給料はあまり出せないんだけどね。」
店長は苦笑いしながら言った。
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